今月に入り、ネットの記事やSNS上で「ドイツ銀行が経営破綻するのではないか?」と騒がれています。
ドイツ銀行経営破綻の噂は本当か?
騒動の発端となったのは、おそらく同行が先月24日に発表した第3四半期決算の内容が悪かったことと、同行の大株主である中国の海航集団(HNAグループ)が出資比率を引き下げていることだと推測されます。
確かに、同行の経営状態は思わしくない状況が続いており、突然危機的状況に陥る可能性もゼロではありませんが、同行にまつわる情報を整理していくと、このタイミングで経営破綻するという話の信憑性は極めて低いことがわかります。
これまで何度もあった「ドイツ銀行危機」説
同行の危機が伝えられたのは、実は今回が初めてではありません。
今年の5月31日、米監督当局が同行の米子会社を問題銀行のリストに加えたと報じられ、同行の株価はフランクフルト市場で一時7.2%安の9.16ユーロに急落、S&Pグローバル・レーティングは同行の格付けを「A-」から1段階引き下げ「BBB+」とすることを発表しました。
さらに2016年には、「英国のEU離脱」と「フォルクスワーゲン社への融資」という、同行の屋台骨を揺るがす問題が起きています。
2016年6月に英国のEU離脱が決定しましたが、同行は英国向けの融資残高が多く、ポンド安などの通貨不安によって大打撃を受けるとの懸念から、EU離脱決定後に株価は急落しました。
またドイツ政府は、排気ガス不正問題によって倒産の危機にあったフォルクスワーゲンの取引銀行である同行に対して、約1兆円の融資をすることを指示し、これが同行の経営危機に追い打ちをかけることになりました。
リーマン・ショックと比べてみると・・・
同行の現状を把握するためには、リーマン・ショック時の状況と比べてみるとよくわかります。
リーマン・ブラザーズが破綻する直前の2008年8月15日、為替は1ドル=110.65円をつけるなど円安傾向にありましたが、破綻の噂が信憑性を増すにつれて円高が進み、破綻が決定した9月15日には1ドル=104.65円まで円高が進行していました。
しかし、今回のドイツ銀行の場合、破綻が噂されてから約1週間経過しましたが、今のところリーマン・ショック直前のように大きく円高に振れる兆候は全く見られません。
また、企業の危険度を図る目安としてよく用いられるCDSを見ても、破たん直前のリーマン・ブラザーズのCDSは600であったのに対し、ドイツ銀行のCDSは142程度で、危険水域とされる300を大きく下回っています。
もし先週発表された第3四半期決算が深刻な状況であれば、機関投資家がこぞって同行のCDSを買い、為替も大きく円高に振れているはずです。
機密情報にアクセスできる機関投資家より先に、一般の個人投資家がドイツ銀行の破綻を察知する可能性は、ほぼゼロに近いでしょう。
ちなみに、欧州の大手銀行を対象に行われた最新のストレステストでは、ドイツ銀行の普通株式等Tier1(CET1)自己資本比率は約8%になると判断されています。
前回2016年のストレステストでは7.8%と判定されており、今回の結果は同行の資本状況の改善を示しています。
溢れる情報に振り回されるな
繰り返しになりますが、同行の経営状態は厳しい状況が続いており、絶対に破綻しないとは言えません。
同行のデリバティブ残高は、ドイツGDPの約20倍、ユーロ圏全体の約6倍とされており、保有するデリバティブのエクスポージャー(リスクにさらされている想定元本)は約4870兆円にものぼります。
もし同行が経営破綻に追い込まれる事態になれば、リーマン・ショック以上の深刻な金融危機に陥ることになるでしょう。
ただし、根拠のない噂話を真に受けて、過剰反応を起こさないように真実を見失わないようにしなければなりません。
リーマン・ショックの際にも、あることないこと様々な情報が飛び交ってマーケットは混乱し、投資家は右往左往しました。
来るべき時に備えて、溢れ返る情報の中から真実を見抜く能力を養っておきましょう。
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