米中通商協議の交渉担当者らは今月22日、通貨に関する合意がまとまったことを受け、協議を週末まで延長すると表明しました。
これにより、交渉の決裂や対立激化は免れそうだとの観測から、市場ではリスクオンのムードが台頭しています。
昨年末から年初にかけて、為替市場関係者のほとんどが円高進行を懸念しており、「1ドル=90円割れもありえる」との声も多く聞かれましたが、現在のドル円相場は1ドル=110円半ばで推移しており、予想外の円安となっています。
予想外に進む円安、今後為替はどう動くのか?
円高予想が多かった理由
多くの為替市場関係者が、急激な円高進行を予想した理由は、「FRBの金融緩和への転換」と「日銀の金融政策に対する手詰まり感」です。
今年1月4日、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、イエレン、バーナンキ両元議長との討論会で、利上げを停止する可能性もあり得るとの考えを示し、実際にFRBは1月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、当面の利上げ停止を決めました。
パウエル議長は、「利上げは既定路線ではない」と強調した上で、必要に応じて「常に政策スタンスを大幅に変更する用意がある」と述べ、当局が必要と判断すれば金融引き締めの停止など柔軟に対応できると強調しました。
このパウエル議長の発言を受けて、市場関係者の間では早くも2019年の利上げ見送りと、2020年の利下げすら織り込み始めたのです。
一方、日本では日銀が「マイナス金利政策」を決めてから約3年になりますが、超低金利により経営体力のない地方銀行の収益が悪化しており、一刻も早く緩和の副作用を抜本的に解決する正常化路線へ転換すべきとの声が上がっています。
実際に、国債買い入れについて日銀はすでに発行されている国債の半分近い470兆円も保有しており、早ければ2020年代後半にも国債の国内消化が限界に達するとの試算もあり、買い入れ額は減額していかざるを得ない状況です。
こうして、米国では緩和拡大の方向に向かい、日本では緩和縮小の方向に進めば、大方の市場関係者の予想どおり円高ドル安となるはずでした。
米国の政策スタンスは転換していない
現在の為替レートは、市場関係者の予想をあざ笑うかのように円安ドル高方向に動いています。
為替レートが大方の予想と真逆の方向に動いている一つの理由として考えられるのが、「FRBは必ずしも金融緩和へ転換したわけではない」ということです。
パウエル議長は「常に政策スタンスを大幅に変更する用意がある」と述べただけで、量的引き締めを見直すと言ったわけではありません。
事実、足元の経済指標は市場の予想を大きく上回る伸びを見せ、パウエル議長は「アメリカの景気は好調が続く軌道にある」との認識を示しています。
今後も経済指標の好調が続けば、たとえ3月の利上げは見送ったとしても、4月以降は再び利上げに舵を切ってくることも十分考えられます。
米中交渉決裂で急激な円高も
もし、米中交渉が決裂して関税が引き上げられれば、当初多くの為替市場関係者が予想していたような急激な円高になる可能性があります
米政府は、中国による外国企業への技術移転の強要や、自国産業への補助金政策などを問題視し、経済構造改革の確約を中国側に迫っていますが、中国側の抵抗が続いているようです。
中国側も、主権や政治体制に関わる構造改革をめぐっては「協力には原則がある」として一方的な譲歩はしない姿勢をみせています。
3月1日の交渉期限はひとまず先送りされましたが、中国の産業補助金などでの隔たりは大きいままで、いまなお予断を許さない状況であることに変わりありません。
景気や株価への波及を警戒するトランプ大統領は、早期合意への意欲を強調していますが、市場で楽観論が広がる中で交渉が決裂すれば、市場は一気にリスクオフに傾き、一時的とはいえ急激な円高が進行する可能性が高まるでしょう。