安倍首相は2018年10月15日の臨時閣議で、2019年10月から消費税を現行の8%から10%に引き上げる方針を表明しました。
これまで2度にわたって増税時期を延期してきましたが、世界の先頭を行く高齢化の進展で、医療や介護などの社会保障コストが膨らみ続けていることや、教育無償化の充実に向けて財源の確保が必要と判断したとみられます。
一般的に、消費税の増税によって為替相場は円安になりやすいと言われていますが、今回の消費増税でも為替相場は円安に動くのか、また為替レートはどうなるのかについて考察します。
消費税引き上げが為替相場に与えるインパクトを考察する
安倍首相は2018年10月15日の臨時閣議で、2019年10月から消費税を現行の8%から10%に引き上げる方針を表明しました。
これまで2度にわたって増税時期を延期してきましたが、世界の先頭を行く高齢化の進展で、医療や介護などの社会保障コストが膨らみ続けていることや、教育無償化の充実に向けて財源の確保が必要と判断したとみられます。
一般的に、消費税の増税によって為替相場は円安になりやすいと言われていますが、今回の消費増税でも為替相場は円安に動くのか、また為替レートはどうなるのかについて考察します。
過去の消費増税のケース
日本では、1989年4月に初めて3%の消費税が導入され、その後1997年4月に税率5%、2014年4月に同8%と、段階的に消費税が引き上げられました。
いずれも4月に行われていますが、その直前の3月末を基準にして増税後の6月末のドル円レートを比較すると、
- 消費税導入時:1ドル=133円から144円へ=ドル高・円安
- 1度目の増税時(5%):1ドル=124円が115円へ=ドル安・円高
- 2度目の増税時(8%):1ドル=103円から101円へ=ほぼ横ばい
となっており、特に一貫性はみられません。
しかし、比較期間を約1年後まで伸ばすと、
- 消費税導入時:1990年4月までの13カ月間で159円まで約20%程度上昇
- 1度目の増税時(5%):1998年7月までの16カ月で145円へ約17%上昇
- 2度目の増税時(8%):2015年5月までの14カ月で124円まで約20%上昇
と、いずれの場合も1年数か月程度の期間で15%から20%程度ドル高・円安が進行しています。
これをもとに、今年10月の消費増税のケースを計算してみると、足元の1ドル=110円を基準にすれば1ドル=130円程度までドル高・円安が進行することになります。
過去3度との相違点
しかし、過去3度のケースと今年10月に予定されている消費増税のケースを比べると、為替相場の状況がやや異なります。
まず、消費税が導入された1989年は、1985年のプラザ合意を受けて円高不況に陥った後、政府の財政出動や日銀の金融緩和などによって反転し、1990年に向けてバブルに突入していく局面でした。
1997年の5%への消費増税は、翌1998年に147円台まで反発するまでの上昇過程で実施され、税率が8%に引き上げられた2014年も、リーマン・ショックによってドル円は2011年に当時の史上最安値である75円台に下落し、その後アベノミクスや日銀の異次元緩和などにより、2015年に125円台まで反発していく過程で増税が行われています。
いずれの場合も、消費増税前の大幅な円高によって不況に陥り、その後政府の財政出動や日銀の積極的な金融緩和により反発する過程で増税が行われた結果、ドル高円安につながった可能性があります。
今回の消費増税では、日銀による金融緩和は継続されているものの、ドルが最安値から反発するような局面ではなく、過去と同じようにドル高円安が進行するとは言い切れません。
軽減税率によるインパクトは?
また、今回の消費増税では1989年に消費税を導入して以来、初めて「軽減税率」が設けられます。
食品(外食、酒類除く)については8%の税率を維持し、中小規模の小売店でクレジットカード払いなどで買い物をした場合、増税分相当をポイントで還元し、需要減を緩和する措置が講じられます。
これまでの消費税導入時には、消費者物価が前年比プラス1%程度から同プラス3%程度に上昇し、これを追いかけるように円安が進んでいます。
しかし、今回の消費増税による消費者物価の押し上げ効果は、軽減税率の導入などにより、前回増税時の約2%の半分の1%程度になると言われています。
もし、ドル円の上昇率も約半分の10%程度になると仮定すれば、今回の消費増税で1ドル=120円程度までドル高・円安が進むのではないかと予想します。