ドイツ銀行合併構想が決裂、より混沌としてくる状況

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ドイツ銀行に残された選択肢は?

ドイツ銀行とコメルツ銀行は4月25日、3月から続けてきた合併協議を打ち切ったことを発表しました。

ドイツ銀行のゼービング最高経営責任者(CEO)は会見で、「この案件は十分な利益をもたらさないという結論に達した」と語りました。

ドイツ政府には、「ドイツには強い銀行が必要」という意向があったことから、両行の合併に前向きでしたが、ドイツ銀行は主力の投資銀行業務が不振で低収益に苦しんでおり、資金洗浄疑惑などが相次いで浮上したことから、最後まで収益回復の絵を描くことができませんでした。

政府が積極的に推し進めた両行の合併が破談となった背景には、「2つの想定外」が大きく影響しています。

決裂したドイツ銀行とコメルツ銀行の合併、「2つの想定外」が影響か?

ドイツ銀行トレーディング部門の不振

一つ目は、ドイツ銀行トレーディング部門の予想以上の不振です。

同行は4月26日、第1四半期の純利益が前年同期比68%増の2億0100万ユーロ(2億2379万ドル)になったと発表、同行が前日に発表した暫定決算では、純利益見通しが約2億ユーロとなっており、アナリスト予想の2900万ユーロも上回りました。

一方で、稼ぎ頭の債券トレーディング部門の収入は19%減少し、ドイツ銀の収入全体の半分以上を占める投資銀行部門の純収入は、13%減の33億ユーロ(36億7000万ドル)となりました。

ドイツ銀行の2018年の自己資本利益率(ROE)は0.4%と、競合する米国の投資銀行を大幅に下回っており、欧州の投資銀行の多くにも見劣りしています。

ロイターの試算によると、ドイツ銀行の国内を重視したプライベートバンキングと商業銀行部門をコメルツ銀行と一体化させれば、合計コストベースは2割削減され、有形株主資本利益率は9.6%になったといいます。

しかし、ドイツ銀行のトレーディング部門の想定以上の不振により、合併によるシナジー効果が劇的に低下し、ドイツ国内で事業を統合するのは合理的ではなくなってしまったのです。

経営陣と大株主の反発

二つ目は、経営陣と大株主の反発です。

合併によるシナジー効果を出すためには、支店の統廃合や従業員の削減など、かなり大規模なリストラを進めることが必要になります。

合併協議に関与した関係者によると、2万から3万人の削減が見込まれていたともいわれており、両行の労働組合は「雇用喪失につながる」として強く反対していました。

労働組合の反発は当初から想定されていましたが、両行の経営陣の中から懐疑論が噴出し、ドイツ銀行の大株主であるカタールの投資家が合併に抵抗したのは予想外でした。

関係者によると、ドイツ銀行側はコメルツ銀行のクレジットポートフォリオの評価見直しが必要になるのではないかと懸念し、一方コメルツ銀行側は、ドイツ銀行が投資銀行を再編する十分な意思があるかどうか懐疑的だったようです。

また、カタールの投資家は、ドイツ銀行が合併資金を捻出するため増資せざるを得なくなり、増資により自らの保有株が希薄化することを懸念していました。

約5年前にカタールが初めてドイツ銀行に投資して以来、同行の株価は約3分の1に低下しており、関係者の話によると、カタールは合併を支持する見返りとしての条件を独自に交渉していましたが、物別れに終わったようです。

ドイツ銀行に残された選択肢はわずか

両行の従業員は合併交渉打ち切りのニュースを歓迎しているようですが、両行ともに利益率が低く、現行の戦略のまま長期的に自力で経営を続けることは困難で、生き残るために新たなプランを検討しなければなりません。

コメルツ銀行については、イタリアのウニ・クレジットやフランスのBNPパリバ、オランダのINGなどが買い手候補として浮上しています。

買収となれば、15%の株式を持つドイツ政府の同意が必ず必要になりますが、「ドイツを代表する大銀行誕生」を望む同国政府としては、ドイツ子会社を持っているウニ・クレジットとの合併が望ましい選択です。

一方、ドイツ銀行については、UBSが同行の資産運用部門であるDWSグループの買収を検討しているようですが、UBS側の関心はそれほど高くないとの指摘もあります。

ドイツ銀行は、過去4年のうち3年が赤字となるなど経営状況が逼迫しており、数百億ユーロの増資が必要になると指摘するアナリストもいます。

ドイツ政府は、ドイツ銀行が現在進めているコスト削減とハイリスク事業の縮小という方法では、経営状況を反転できる見込みはほとんどないと考えています。

もし合併の道がなくなれば、ドイツ銀行にはライツイシュー(新株予約権無償割り当て)による資本増強など、わずかな選択肢しか残されていません。

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