長期債金利というのは、一旦上がりだすとそう簡単には収まらないものだと言われています。
しかし足元ではヘッジファンド勢が米国10年国債を徹底して売り持ちしており、そのボリュームが殆ど後退せずに推移している状況に注目が集まりつつあります。
数年前にマイケル・ルイスの世紀の空売りという本が原作のマネーショート(原題ビッグショート)という映画が公開になって話題になりましたが、まさにそれを彷彿とさせるかのようにヘッジファンド勢は米債の売りから撤退しないままの状況が続いています。
米10年国債に徹底してビッグショートで臨むヘッジファンド勢
IMMのデータでは利回り上昇とともに売り持ちが増大
毎週シカゴCMEが発表しているIMMのポジション動向によりますと4月以降大口投機玉の売りは週を追うごとに大きくなっており、5月1日付だけ若干売り買いのネットは減少していますが、引き続き高い水準を維持しています。
通常売りが積み上がり過ぎるとそれなりのショートカバーがでるものですが、売り持ちに全く後退の兆しがない点をどう見るかが大きな関心事になりつつあるのです。
債券強気派は過去2017年前半に積み上がったショートが瓦解して大きなショートカバーが出たことの再来を期待していますが、今回も前回の再現になるとはかぎりません。
ただ、いまの債券市場の動きはFRBの利上げが影響を与えていることだけは間違いなさそうです。
6月にも追加利上げが予想されているだけにここからの債券の金利の推移も非常に気になる状況になってきています。
過去の米国株式市場の大暴落の前には必ず過度な利上げが行われている
ここ100年ぐらいの米国債券、株式市場を俯瞰してみても、ほぼ10年に一度程度起きる大幅な相場の下落の前にはだいたい金融当局による過度な利上げがその引き金となっています。
新債券の帝王の異名をもつダブルラインキャピタルのジェフリー・ガンドラックは金利上昇とドル安が示現するのは危険なカクテルであると警鐘をならしてきましたが、足元では金利に合わせてドルが独歩高に陥っており、債券金利が上昇しても株価が大きく崩れる兆候は今のところみられていません。
ただ、借金経済の米国にとっては金利の上昇は国民生活にシリアスな影響を与えることは間違いなさそうで、足元で上昇し始めている原油価格がインフレを引き起こすことになればFRBは利上げサイクルをより早くせざるをえず、株価が持ちこたえられなくなる時期が必ずやってくることになりそうです。
今年2月のゴールドマンサックスのエコノミストがそのレポートの中で、米10年債利回りが仮に年内に4.5%にまで上昇した場合、株価は現状の水準から20%~25%下落するとの分析を発表して話題になりました。
つまり2万5000ドル水準のNYダウはトランプが大統領に当選した時点の2万ドルを下回る水準まで逆戻りすると見ているわけです。この時点における同レポートは今年の利回りは3.25%が最大で景気後退には至らないと分析してはいますが、足元の金利はすでに3%を上回り始めており、3.2%は目と鼻の先に迫りつつあります。
果たして現状におけるヘッジファンド勢の米10年債売り持ちが金利のさらなる上昇を示唆したものなのか単なる逆指標でしかないのかは、ここからの相場の状況を見守っていればごく近い将来にその結論を見ることができそうです。
すでにリーマンショックから10年目に入り景気拡大も100か月をゆうに超えたなかで相場が反転下落するリスクはだれしもが危惧していますが、それが果たしていつ、なにがきっかけになるのかは誰にも判らないのが正直なところです。
インフレさえ起こらなければ今年の中間選挙あたりまでゆるやかな上昇相場が続く可能性も否定はできません。
ヘッジファンドのこのような動きが吉と出るのか凶とでるのかはもう少し先まで見ていかないことにはわからないのが実情です。