本投稿は、マレーシアのタックスヘイブンの仕組みについて誰にでもわかりやすく解説しています。
特に投資や事業で成功し、タックスヘイブンの恩恵を受ける為に海外移住を検討されている方には参考になるかと思います。
マレーシアにおけるタックスヘイブンの基本的な仕組み
マレーシア・ラブアン法人とは?
ラブアン島とは、香港やシンガポール同様、アジアのタックスヘイブンにすべく、マレーシア政府の肝いりで「金融経済特区」として連邦直轄の島とされ、1990年のオフショア法制定に基づき、ラブアン・オフショア金融サービスセンター (LOFSA) が設立された島です。
タックスヘイブンとは、様々な税務上の優遇が受けられ、著しく軽減された税率が適用されていたり、課税が完全に免除されている国やエリアのことです。
ラブアン法人で何ができる? 日本国外でビジネスをする場合の拠点や節税対策
租税回避地(そぜいかいひち)や低課税地域(ていかぜいちいき)とも呼ばれるタックスヘイブンのラブアン島ですが、海外からの投資を呼び込むために法人やその役員に様々な税制上の恩恵や居住メリットを与えています。
この最たるものは、マレーシア国外でのビジネスであり、なおかつ上限税額20,000リンギット(約60万円、1リンギット=30円換算)、または3%という極めて低い法人税を支払えば、それ以上はいくら所得が発生しても課税されないという点にあります。
メリットを受けるには条件がある
日本人がラブアン法人を設立して、税制上の恩恵を受けるためには条件があります。
それは日本の非居住者であること、また香港やシンガポール、マレーシアなど国外源泉所得非課税主義を採用している国に居住していることが条件となります。
つまり、日本の居住者の場合は日本の税制の影響下にあり、いくら所得が発生しても課税されないというメリットが受けられません。
しかし、逆にマレーシアやシンガポールなどに居住したい方で、税務上の最大限の恩恵を受けたい方には非常に好都合な条件となります。
日本国内と比較すると法人税が丸々節税できる
例えば、日本国内でFX取引をしている法人または個人を例に挙げてみましょう。
日本国内でFX取引からの収入が発生すれば、個人名義による取引なら20%の申告分離課税と住民税が発生しますし、法人化すればそれ以上になることは必須です。
税制改正により20%となったことは良かったのですが、それでもたくさん稼いでいる方の中には何とか節税できないか?と考える方もいるのではないでしょうか。
その点、ラブアン法人としてFX取引専門の会社を設立すれば、日本国内のFX取引で得た所得に課税される所得税20%、法人化している場合にはそれ以上の法人税がまるまる節税できるということにもなるのです。
ケイマン島やマン島などにはない大きなメリット
ラブアン法人を設立すれば取締役は家族とともにクアラルンプールやジョホールバルといった生活しやすいマレーシア本土で暮らせるビザも発給されます。
これはタックスヘイブンとして有名なケイマン島やマン島などにはない大きな特典となります。
ラブアン等では様々な業種での法人化が認められている
ラブアン島のルールでは、様々な業種での法人化が認められています。
FX会社だけでなく、例えばラブアン法人にSPC(特定目的会社)を設立してファンドを組成したり、富裕層向けのウェルス・マネジメント会社といったビジネスも可能になります(ただし、仮想通貨事業に関する法人化認可は現行では不可)。
また、マレーシア本土で暮らしながら、ラブアン法人を拠点に東南アジアにビジネス展開といったことも可能という訳です。
サバ州の沖合い南シナ海に浮かぶ島
マレーシアというとマレー半島上にある首都「クアラルンプール」を思い浮かべる人が多いですが、マレーシアの国土の半分は、インドネシアに隣接するボルネオ島の北半分が占めています。
ボルネオ島と言えば、「オランウータン」で有名な「コタ・キナバル」があり、その名前ぐらいは聞いたことがあるという方もいるでしょう。
ラブアン島はこのボルネオ島の沖合、サバ州南シナ海上に浮かぶマレーシア連邦直轄で、香港よりすこし大きい程度(総面積85平方キロメートルほど)のリゾート島です。
ラブアン島は首都クアラルンプールから、距離にすると直線で約1,500キロ、飛行機で2時間半ほどで結ばれています。
ラブアン島への行き方
飛行機
ラブアン島にはクアラルンプール発の直行便が、東南アジアナンバーワンの旅客数を誇るLCC「エアアジア」から毎日就航されていますし、コタ・キナバルなどからも直行便が飛んでいます。
空港は島の中心部であるビクトリアから北に5kmほどのところにあります。
空港から街の中心部まではタクシーを利用するのが一般的ですが、路線バスを使うこともできます。
船
ブルネイ、サバ州のコタ・キナバル及びメヌンボック(Menumbok)、サラワク州のラワス(Lawas)からそれぞれフェリーが運航されています。
コタ・キナバルからは1日2便運航されており、所要約3時間、料金は船によって異なるようですが概ねRM20~40前後です。
ブルネイからは1日4便~6便程度運行されており、所要約1時間、料金はB$15です。
著名な金融機関もラブアン法人設立
ラブアン島の産業自体は、漁業とダイビングなどの観光以外に大きなものはありません。
これは香港やシンガポールを除けば、ケイマン島など他のタックスヘイブンと似たような島です。
従って、島の雰囲気は超がつくほどのんびりしていて、特に都心から来た方には刺激が乏しいかもしれません。
筆者も5年ほど前に2度この島を訪れたことがありますが、観光地という感じでもなく、法人設立やビザ申請など何かの用事がない限り、一度行けば十分という印象を持ちました。
現地のビザサポート会社の方に市の中心で繁華街!?と言われるエリアに案内されましたが、官公庁と小さなショッピングモールがあるだけで、そこから少し離れたところに魚介類や野菜を売るマーケットがあるくらいです。
このように街はのんびりとしているものの、その一方で、HSBCなど著名な世界規模の金融機関を中心に日本企業も規模の大小を問わずラブアン島に法人を設立しています。
これまで様々な業種が税制上の恩恵を受けるためにこの島に法人登記しており、マレーシア政府の思惑はある程度まで達成されていると言ってもいいでしょう。
タックスヘイブンたるラブアン法人を設立する税制上のメリット
これまでは、タックスヘイブンたるラブアン法人設立の仕組みや主なメリット、何をすることができるのかについてその概要をお伝えしましたが、ここからはさらにラブアン法人を設立することで得られる様々なメリットについて詳細にお伝えします。
1.様々な税務上の恩恵が受けられる
まず何と言っても税務上の恩恵が受けられる点は、ラブアン島で法人設立する最大の目的の一つといっても過言ではないでしょう。
税務上の優遇面としては法人税と所得税の双方について適用があります。
尚、これらの税務上のメリットについては、基本的に日本非居住の法人を前提としており、日本居住者である法人の場合は原則、日本の国内税法に縛られるために注意が必要です。
2.法人税について
法人税については事業内容に応じて、Trading CompanyとNon-trading Companyに分類され、それぞれ税務上の内容が異なります。
3.Trading Companyで事業をおこなう場合
まず、貿易業などのTrading Companyに該当する場合は当期純利益の3%または上限税額20,000リンギット(30円/リンギット換算で約60万円)のいずれかから納税額を選択することができます。
4.当期純利益の3%を選択すると
このTrading Companyに該当する事業をおこなう場合で3%の納税を選択した場合は、会計監査を受け、監査人の監査証明のある財務諸表(損益計算書)に基づいた当期純利益に対する納税をしなければなりません。
5.上限税額の20,000リンギット(約60万円)を選択
しかし、上限の20,000リンギットの納税を選択すればいくら収益を出しても上限以上の税が課税されないばかりか、対応に多くの時間と手間のかかる会計監査が免除になる特典もあります。
これは課税上限を申告納税するのですから、監査により財務諸表をチェックする意味がなくなることからこのような恩恵が受けられるためです。
法人税の優遇措置 香港、シンガポールと比較
Trading Company
香港法人 | シンガポール法人 | ラブアン法人 | |
---|---|---|---|
税率 | 13.5% | 17% | 3%または一律2万リンギット |
会計監査 | 必要 | 必要 | 必要(2万リンギットを選択した場合は不要) |
6.Non-trading Companyで事業を行う場合
一方、投資関連やIT関連のビジネスになるとNon-trading Companyに該当し、法人税は非課税となります。
因みにラブアンでFX取引をメインにおこなう会社を設立した場合、Non-trading Companyに該当しますので、非課税の恩恵が受けられることになります。
Non Trading Company
香港法人 | シンガポール法人 | ラブアン法人 | |
---|---|---|---|
税率 | 16.5% | 17% | 0%(完全非課税) |
会計監査 | 必要 | 必要 | 不要(確定申告も不要) |
さらにFXや株などをベースとした投資助言業やファンドオブファンズなどを構築して自社運用するといったファンド事業も展開でき、いずれもラブアンのタックスヘイブンとしてのメリットを受けることができます。
7.非課税の恩恵を受ける際の注意点は
ここでNon-trading Companyとして非課税の恩恵を受けるには注意が必要になります。
それはFXや株、ファンドなどの取引を行なう場合、マレーシアや日本以外の国で、なおかつ非課税の恩恵が受けられる国に属する金融機関や業者を利用しなければいけません。
証券会社紹介
- FXの場合:セーシェルの「XMTrading」など。
- 日本株の場合:シンガポールの「フィリップ証券」など。
8.国外源泉所得非課税が適用され課税なし
これはマレーシアの場合、「国外源泉所得非課税の原則」が適用されており、マレーシア国外の金融機関や事業者などを介しておこなわれる取引から利益が出ても、原則課税されることはありません。
9.日本では納税義務が発生
日本については日本非居住の法人でも、日本国内にある金融機関や事業者を介しておこなわれた取引から得られた利益には日本国内での納税義務が発生してしまうためです。
また、マレーシアや日本以外の国で登録されている金融機関や業者でも、日本同様にその国内で発生した利益として課税されてしまってはラブアン法人のメリットが無くなってしまうため、シンガポールや香港のような税務面での恩恵が受けられる国に属する業者を利用するということが前提となる訳です。
10.所得税に関するメリット
ラブアン法人を設立した場合、取締役として役員報酬を受け取ることになります。
役員報酬への課税ですが、マレーシア以外の国に居住しているマレーシア非居住者の場合、役員報酬については「国外源泉所得」として扱われ、いくら報酬があっても全額非課税の恩恵を受けることができます。
※マレーシア人以外の役員が受け取る役員報酬は100%免税され、全額非課税となります。
その一方、ラブアン法人を設立するとマレーシア国内で居住可能となる就労ビザを取得することができますが、その就労ビザによりマレーシア国内に182日以上滞在した場合、「国内源泉所得」として扱われ、納税義務が発生します。
日本人がラブアン法人を設立し、役員報酬を受け取る場合(マレーシア税法の扱い)
マレーシア非居住者 | 国外源泉所得 | 全額非課税 |
就労ビザで182日以上滞在 | 国内源泉所得 | 役員報酬の50%は非課税 |
ただし、その場合であっても役員報酬の50%は非課税という税制上の優遇措置が取られており、非常に低い納税で済ませることができます。
※マレーシア人以外の管理職が受け取る給料は、所得の50%相当額まで免税されます。
11.役員報酬への課税
この役員報酬への課税についてですが、ラブアン就労ビザの要件として現行では取締役の給料を最低月額10,000RM以上としなければなりません。
そして2019年3月適用の税務ルール(Inland Revenue Board Of Malaysia)によれば、その内の3,000リンギットを非課税の役員報酬とすることができます。
つまり、最低月額の取締役給料は実質7,000リンギット相当となり、年間で84,000リンギット(30円/リンギット換算で約252万円)の役員報酬が最低でも発生し、その半分に当たる42,000リンギット分に対する課税額である2,400リンギット(30円/リンギット換算で約7.2万円)を年額で納める必要があります。
また、上記の最低月額以上の給料については非課税となり、大きな恩恵を受けることができます。
タックスヘイブン以外のラブアン法人設立メリット
マレーシアのラブアン法人を設立するメリットは、税制的なものだけではありません。
他にも様々なメリットがあるので紹介していきます。
マレーシア国内で法人設立よりも好条件
ラブアン法人設立はマレーシア国内で外国人である我々日本人が法人設立をする場合に比べて、はるかに大きなメリットがあります。
それはマレーシア国内あるいはマレーシア国内居住者向けにビジネスをしないという前提条件の上での話にはなりますが、設立条件が非常に簡単で好条件という点にあります。
顧客ターゲット | |
---|---|
マレーシア現地法人 (SDN. BHD.) |
マレーシア国内外問わず |
ラブアン法人 | マレーシア国外向けのサービス ※マレーシア国外の場合は別途請求書発行などの手続きあり |
100%外国資本での法人設立が可能
法人設立にあたり、国によっては100%の外国資本が認められていない場合があります。
マレーシアでもマレーシア国内法人を外国人である我々日本人が設立する場合、多くの業種でマレーシア人の資本参加が義務付けられています。
ラブアン法人ではこのような義務付けは皆無であり、100%外国資本による法人設立が認められています。
つまり、経営の自由度において一切の足かせがありません。
資本金 | |
---|---|
マレーシア現地法人 (SDN. BHD.) |
小売業・卸売業・レストラン業等:100万リンギ(外資が一定割合以上の資本金を持つ場合) 2)その他の業種で就労ビザを申請する場合:外資100%の場合は最低50万リンギ、合弁の場合は最低35万リンギ |
ラブアン法人 | 指定なし |
1人株主・1人取締役が可能で、ローカル雇用義務もなし
ラブアン法人の場合、日本国内で法人設立する場合と同様に1人株主や1人取締役が認められています。
ラブアン法人 | |
---|---|
取締役 | 取締役:1名(マレーシアに住んでいなくてもOK) |
株主 | 株主:1名(マレーシアに住んでいなくてもOK) ※取締役と株主は同一人物でOK。 |
これがマレーシア国内で外国人が国内法人を設立すると多くの業種でマレーシア人の取締役を入れることやローカルスタッフの雇用が義務付けられています。
マレーシア現地法人(SDN. BHD.) | |
---|---|
取締役 | 取締役:最低2名(要マレーシア住所) |
株主 | 株主:最低2名(マレーシアに住んでいなくてもOK。法人が株主となる場合は1名でもOK) ※取締役と株主は同一人物でも可。 |
マレーシア人の取締役やローカルスタッフがいると一見メリットがありそうですが、そもそもラブアン法人の場合はマレーシア国内でのビジネスが認められていません。
従って、その効果は非常に限定的と言えますし、ローカルスタッフの雇用は固定費の増加にもつながってしまいます。
このような義務のないラブアン法人の場合、ビジネスをする上で非常に小回りが利きますし、何よりマレーシア人を入れることによるカルチャーギャップなどが生ずることがないのはとても大きなメリットと言えるでしょう。
就労ビザの取得が可能
ラブアン法人を設立すると別のメリットとして挙げられるのが、就労ビザが発給される点です。就労ビザが取得できると以下のようなメリットがあります。
家族ともどもマレーシア国内に居住できる
ラブアン法人を設立した場合、取締役には就労ビザが発給され、日本人が多くて住みやすいクアラルンプールやジョホールバル、ペナン、ランカウイなど好きなところに居住することができます。
インターナショナルスクールが豊富にある
このビザは取締役本人だけでなく、その家族にも帯同者ビザが発給されますので家族全員で居住することも可能です。
子供がいる方の場合はインターナショナルスクールの選択肢が豊富にあるマレーシアでバイリンガルに育てることもできます。
銀行で個人口座開設も可能
さらにマレーシア国内の銀行で個人口座開設も可能ですし、カード決済が即座にできるVISAやマスターカードのデビッドカード(銀行により対象ブランドが異なります)が口座開設時にその場で入手できるため、生活面でも非常に便利です。
ローカル銀行として有名なのはMAY BANK,CIMB BANK,AM BANK,RHB BANK等が挙げられます。
グローバル銀行としてはCITI BANK,HSBC BANK等が挙げられます。
居住義務なしというメリット
就労ビザ発給の別のメリットとして挙げられるのが、居住義務要件がないという点です。
外国人に発給される各国のリタイアメントビザや就労ビザですが、国によっては年間で一定の居住日数を発給要件とされているものがありますので、そのような居住義務が無いのは大きなメリットと言えるでしょう。
好きな所に移住しながらビザが維持できる
このおかげでマレーシアに居住することなく、日本やシンガポール、香港、オーストラリアなどに居住しながらこのビザが維持できますし、90日間という限度のある観光ビザと異なり、必要に応じて好きなだけマレーシアに滞在しながら自分のビジネスを展開することもできます。
日本居住者は注意が必要
ただ、日本居住者は国内税法に縛られますので注意が必要です。
下記の方は、日本の国内税法に縛られるため、日本への納税義務が発生します。
- 日本に半年以上居住している方
- 日本国籍保有で、どこの国の居住者でもない方
詳しくは、次の「タックスヘイブンを使う上でのデメリット」の中で解説していきます。
タックスヘイブン・ラブアン法人のデメリット
日本国内居住者の場合の注意点
ラブアン法人を設立して法人アカウントでFXを行なおうと考えている日本国内居住者の方もいるかもしれません。
しかし、日本ではタックスヘイブン税制が敷かれており、日本国内居住者の場合はラブアン法人からの役員報酬など海外で発生する収入についても国内のそれと同様に確定申告により納税する義務があります。
日本居住者は、節税メリットを得ることができない
つまり、日本国内居住者にとってはラブアン法人設立によって節税メリットを得ることは不可能ということになります。
年間で38万円以上の収入があれば国内外を問わず確定申告の上で納税しなければならないということです。
これはラブアン法人の制度そのものデメリットではなく、あくまで日本国内税法からくる制約にすぎません。
183日ルールで課税は免除される?
それではせめて1年間まるまるとは言わず、その半分でもいいから住民票を抜いた上で日本に居住すれば非居住者として課税が免除されるのでは?と考える方もいるようです。
さらに183日ルールの考え方に基づけば同様に所得税や住民税が免除される可能性を期待されている方もいるかもしれません。
日本の所得税法における「居住者」の概念は日本国内に住所を有し、又は現在まで引き続き1年以上居住を有する個人とされ、そのような居住者以外の個人を非居住者として規定されています。
1 居住者と非居住者
わが国の所得税法上、「居住者」とは、国内に「住所」があり、または、現在まで引き続いて1年以上「居所」がある個人をいいます。居住者(非永住者を除く)は、所得が生じた場所が国の内外を問わず、その所得についてわが国において所得税を納める義務があります。
なお、居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である人を「非永住者」といいます。非永住者は、国内において生じた所得(国内源泉所得)とこれ以外の所得(国外源泉所得(例えば、国外で支払われる預金等の利子や、国外にある不動産の貸付・譲渡による収益、国外の法人等に対する出資に係る収益など))で日本で支払われたもの又は国外から送金されたものについてわが国において所得税を納める義務があります。
また、「非居住者」とは、居住者以外の個人をいい、(国内源泉所得)に限って所得税を納める義務があります。
日本を含め2か国以上に居住する方の場合、あくまで住居や職業、資産がどこに所在するのか、国籍といった項目から総合的に税務署から判断されます。
3 複数の滞在地がある人
ある人の滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、例えば、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等の客観的事実によって判断することになります。(注) 滞在日数のみによって判断するものでないことから、外国に1年の半分(183日)以上滞在している場合であっても、わが国の居住者となる場合があります。
1年の間に居住地を数か国にわたって転々と移動する、いわゆる「永遠の旅人(Perpetual Traveler, Permanent Traveler)」の場合であっても、その人の生活の本拠がわが国にあれば、わが国の居住者となります。外国(A国)の居住者となるかどうかは、A国の法令によって決まることになります。A国で居住者と判定され、わが国でも居住者と判定される場合、租税条約では、二重課税を防止するため、居住者の判定方法を定めています。どちらの国の居住者となるかを判定するに当たっては、わが国とA国との租税条約によりますが、国籍をひとつの判断要素としている条約もあります(日米租税条約等)。なお、必要に応じ、両国当局による相互協議が行われることもあります。
(所法2、3、7、所令14、15、所基通2-1、3-1から3-3、各租税条約)
さらに日本の所得税法においては183日ルールという概念自体がありませんし、住民票を抜いているかに関わらず、生活の実態がどちらにあるかで居住者かどうかが判定されてしまいます。
従って、単純に一年の半分以上を海外で暮らしているからという理由だけで勝手に自己判断で課税が免除されるであろうと期待するのはリスク以外の何物でもありませんので注意が必要です。
詳しくは国税庁ホームページへ
マレーシア国内向けビジネスができない
次にラブアン法人には様々な税務上の恩恵が認められていますが、それらは原則としてマレーシア国内での事業活動とマレーシア居住者との取引を行なわないという前提の上に成り立っています。
つまり、このことは反対にラブアン法人ではマレーシア国内での事業活動は認められておらず、そのような活動を行なうにはあらためてマレーシア国内に別途国内法人を設立する必要があることを意味しています。
顧客ターゲット | |
---|---|
マレーシア現地法人 (SDN. BHD.) |
マレーシア国内外問わず |
ラブアン法人 | マレーシア国外向けのサービス ※マレーシア国外の場合は別途請求書発行などの手続きあり |
※ラブアン法人を活用して国内取引を行った場合、取引の事実のあった日から10日以内にLabuan FSA(金融庁)への書面による提出が義務付けられ、遅延した場合は1日あたり500リンギット、最大で10,000リンギットのペナルティーが課されます。
マレーシア国内法人となれば、ラブアン法人で受けられるような税務上のメリットはありませんし、納税額に関わらず、会計監査を受けた上での納税が求められることになります。
上記のことはFXなど投資活動を中心に法人設立を考えている方ならあまり関係のない話ではありますが、マレーシアでも営業活動を合わせてしてみたいと考えている方は検討すべき事項になりそうです。
ラブアン法人とマレーシア現地法人の法人税率比較
税率 | |
---|---|
マレーシア現地法人 (SDN. BHD.) |
18〜24% |
ラブアン法人 | 3%、または定額2万リンギのどちらかを選択可能。>※但し、サービス/商品提供先各国の税法により課税されることがあります。その点は各国の税法専門家にご確認ください。 |
固定で2万リンギットか、利益の3%か
ラブアン法人に対する税率は非常に低く、会計監査済の損益計算書上の当期利益に対して3%か、または一律2万リンギットの課税のいずれかを選択して納税すれば済みます。
しかし、前者の3%の納税方法を選ぶと、ラブアンオフショア金融センター公認の会計監査人による監査を受けなければならなくなります。
利益の3%を選択 | ラブアン金融庁から認可を受けたAuditor(監査人)を選任し、会計監査を受ける必要がある。 |
---|---|
定額2万リンギットを選択 | 会計審査は不要。 |
この監査対応のために面倒な帳簿の整理や説明責任が求められるのはデメリットの一つと言えるかもしれません。
選択のタイミング
定額2万リンギを払うか、利益の3%を払うかは、毎事業年度選択することができます。それも、「事業年度が始まるときに選択するのではなく、事業年度が終わった後に法人税申告の際に選択する」という制度となっています。なので、年度が終わり、どれくらい利益がでたかを確認した後に3%か2万リンギを選択できます。
また、ラブアン法人でマレーシア人以外の従業員を雇用する必要がある場合は月収ベースで最低額10,000リンギット(およそ30万円)を支給する必要がルールとされています。
例えば、マレーシアの現地に滞在する日本人富裕層向けに投資アドバイスなどの事業を行なう場合などで日本人を雇用する場合は毎月の固定費用として10,000リンギット以上の固定費が発生することになります。
日本在住のままではメリットはほぼなし
ラブアン法人は非常に魅力的な仕組みを持っていますが、それなりにデメリットや限界もあります。
特に日本に居住しながら何かしらの節税スキームを考えている方にとってはメリットがありませんので注意が必要です。
マレーシア ラブアン法人設立手続きの具体的方法
ラブアン法人設立の概要やメリット、デメリットまでご紹介してきたところで、次は法人設立の具体的な手続きについてその流れを簡単にご紹介します。
代行業者について
具体的な手続きをご紹介する前に代行業者の話を先にしたいと思います。
というのもラブアン法人設立を自分でやろうという方はほとんどおらず、特に日本人の場合はまず業者の代行申請というケースがほとんどだからです。
マレーシアにはクアラルンプールを中心に日本人で日本語による代行サービスを提供している業者が乱立するMM2Hの代行申請業者ほどの数はありませんが、いくつかあります。
不安な方は日本人の業者に依頼
法人設立の手続き自体はそれほど複雑な作業ではありませんが、言葉の問題で不安な方や今さら英語を使うのが面倒な方は何かあった場合も考慮して日本人の業者に依頼されたほうがいいでしょう。
ただし、現地の業者に比べて費用はそれなりにかかりますので英語でのビジネスメールに問題ない方ならラブアン島内に点在し、クアラルンプールにも支店(支所)がある業者が何社かありますのでそちらに依頼されるほうがいいかもしれません。
むしろ経験豊富でラブアン金融庁の内部担当者の手続きの進め方や個々の担当者の癖なども熟知している上、制度変更など最新情報のアップデートについて一番早く入手している彼らはとても頼りになります。
また、費用面でも日本人業者よりも安いのは確かです。
Googleで検索すればすぐに探せるでしょう。
ラブアン法人設立の手続き
ラブアン金融庁
発起人が会社設立したことやその社員となる旨の記載のある基本定款(Memorandum of Association)や会社運営の基本的な規定となる通常定款(Articles of Incorporation)を用意します。
同時に法令順守宣言書(Declaration of Compliance Form 6)と取締役・株主同意書
(Director/Shareholder Consent Form 24)を合わせて用意し、申請者となる取締役の英文カバーレター付きの英文履歴書やパスポート全ページのコピー、住所の記載のある書面(公共料金の請求書など)とともにラブアン金融庁に提出します。
ラブアン法人設立に必要な書類
- Memorandum and Articles of Association(会社定款)
- Form 7- Company Registration Certificate(法人登録証明証)
- Form 13- Return of Allotment of Shares(株式割当報告書)
- Form 23- Notice of Situation or Changes of Registered Office(法人所在地登録証)
- Form 25- Return on Particulars and Charges of Directors and Secretaries(会社役員及びカンパニーセクレタリーの報告書)
- Share Certificate(株券)
社名を決める
これらの主要な手続きと同時に社名を決める必要がありますので、希望する社名の候補をいくつか考えてIBFC内のラブアン法人登記所で過去に同社名がないかどうかを確認します。
尚、主に英語・マレー語にて使用禁止用語に該当しないか審査があります(社会通念上、社名にふさわしくないと判断された場合は承認がなされません。例として、公序良俗に反する言葉やイスラム教を冒涜するような言葉などが禁止ワードに該当します)。
希望する社名の登記が他になければその社名で登記申請することができますので、合わせて申請を行ないます。
申請に関する費用等はラブアンIBFCのホームページ(https://www.labuanibfc.com/)などで確認してみてください。
会社設立証明書の発行
FORM7 サンプル
晴れて申請が承認されると登録申請した社名と登記番号の入った「Form7」という電子ファイルの会社設立証明書が発行されます。
ここまでの手続きが完了すれば次に銀行での法人口座開設の手続きに移れます。
法人口座開設
法人口座開設には社名と登記番号記載の法人印鑑(社印)をあらかじめ用意し、パスポート持参で行ないます。
開設時に必要な書類としては、FORM 13 株式割当て書類やラブアン島オフィス登録書、基本約款、取締役決議書を提出する必要があります。
法人口座開設に必要な書類
- 口座開設申請書
- FORM 13 株式割当て書類
- ラブアン島オフィス登録書
- 基本約款
- 取締役決議書
法人口座開設手続き当日に必要なもの
- パスポート
- 名刺
- 会社印
オンラインバンキング専用の端末受け取り
ほとんどの方が法人口座のオンラインバンキングを同時に申し込まれると思いますが、その際にはオンラインバンキング専用の小さな端末(トークン)を受け取る必要があります。
郵送の銀行もありますが、ほとんどの銀行の場合、銀行まで直接出向いていくことになります。
口座開設の通貨は
- Current Account(当座預金口座)通貨:マレーシアリンギット
- Multi Currency Account (外貨口座)通貨:USD、日本円等
の2種類の口座を開設できます。外貨口座一つでUSD、日本円、その他通貨の取引が可能です。
就労ビザの申請
最後にラブアン法人の取締役自身のワークパーミット(就労ビザ)をラブアンIBFCに申請します。
申請は公証人のスタンプのあるパスポートの全ページコピー(PDF)と英文カバーレター付きの英文履歴書を提出します。
残高証明書の発行
申請前に予め開設してある法人口座に資本金(ディポジットとして250,000リンギット(約6,800,000円相当)を入金しておき、残高証明書を発行してもらいます。
その残高証明書と写真6枚(白背景でサイズ3.5cm×5.0cm)を上記の書類と一式で申請し、申請が認められたらパスポート持参でラブアン島に申請者本人がビザを取りに出向きます。
ビザ申請に必要なもの
- 英文カバーレター、英文履歴書
- パスポート全ページのPDF(※1)
- 残高証明書(資本金ディポジットMYR25万)
- 写真(白背景)3.5cm×5.0cm 6枚
(※1)コピーしたパスポートの全ページにご本人のサインをする。(Nortary Public: 公証人のスタンプを取得したものを提出して下さい。)
スタンプを取得に行く際は、ご本人のパスポート原本、(全ページサイン済みの)パスポート全ページのコピーを持参して下さい。
ビザはパスポート内のページに貼り付け、有効期限などの情報とともにスタンプを押してくれますのでそれで全ての手続きが完了することになります。
帯同者のビザ申請
尚、帯同者となる家族のビザ申請もこの段階で同時に行なえます。
ここまでの手続き全てにかかる期間ですが、特に問題がなければ8週間ほどになります。
まとめ
実際のところ、書類の準備や手続きについては業者が全て代行してくれ、申請者本人はパスポートのコピーなど簡単な書類の用意する以外はそれらの書類にサインするだけという場合がほとんどであり、それほど難しいことはありません。
FXにおけるラブアン法人とMM2Hビザの優位性を比較
これまで、概要、メリット、デメリット、手続きと解説してきましたが、ここではFX取引の利益に対する節税のみを前提とした場合、ラブアン法人とMM2Hビザとではどちらに優位性があるのかについての比較をしてみます。
恐らくFX取引を前提として両者を比較しているサイトやブログは他に無いと思われますので、本邦初公開ということになるかもしれません。
ラブアン法人とMM2Hに共通したメリットデメリット
まず、ラブアン法人とMM2Hの両者で比較した場合の共通のメリット・デメリットについてお伝えします。
注意:日本居住者の場合
先ほども解説しましたが、そもそも日本居住者の場合は、日本の税法下におかれるため、必ず課税されてしまいます。
よって少なくともFX取引で得た利益に関する節税だけを目的とする場合、ラブアン法人もMM2Hも共にメリットが無いことになります。
マレーシアに居住できる
まず挙げられる共通するメリットとして、マレーシアに居住できるようになる点が挙げられます。
しかし、両者には厳密には違いがあります。
それはMM2Hの場合はFXで利益がなかったり、止めてしまっても、およそ経済的に問題が無ければビザを再延長で更新して住み続けることができますが、ラブアン法人の場合はそうもいきません。
ラブアン法人の場合、事業が継続していないとビザが更新できない可能性があるからです。
FXを何かしらの理由で止めてしまい、事業活動が継続していないという状態が続くと、法人ビザの更新が認められなくなり、最悪の場合、ラブアン法人を前提として取得できている役員の就労ビザの更新も危うくなり、マレーシアに居住し続けることが難しくなってしまいます。
就労ビザ更新チェック項目
- 資本金は払い込まれているか
- 就労ビザ発給要件である給料(月1万RM)は支払い済みか
- 個人所得税を申告しているか
- 法人税を申告しているか
- ラブアン法人のビジネスに実態があるか
- 就労ビザホルダーが、マレーシアに滞在する必要性があるか
- ラブアン法人の年間更新料を遅れず支払っているか
FX取引を前提とした場合の結論
いきなり結論ですが、およそFX取引をビジネスとして節税するメリットを得ることだけを考慮するなら、ラブアン法人設立にそれほどの優位性はなく、MM2Hのほうが手続きもビザの更新も簡単で目的に合致していると言えるのではないでしょうか。
MM2Hビザの申請条件
50歳以上の方 | 50歳未満の方 | |
---|---|---|
収入証明 | 月額1万リンギ以上(約30万以上) | 月額1万リンギ以上(約30万以上) |
資産証明 | 35万リンギ以上(約1,050万円以上) | 50万リンギ以上(約1,500万円以上) |
定期預金作成 | 15万リンギ以上(約450万円) | 30万リンギ以上(約900万円) |
その理由を筆者は以下のように考えています。
海外FX業者の場合はレバレッジ規制優位のメリットがないこと
日本でFX取引をすることだけを前提に法人化する場合、最大のメリットの一つにレバレッジ規制が緩和され、投資効率が上昇することが挙げられます。
しかし、そもそも個人に対するレバレッジ規制が元々緩い海外のFX業者を利用するという前提があるのですから(その理由については前項参照)、ラブアン法人設立を通じてレバレッジ規制に関する法人化のメリットはほとんどありません。
納税義務や法人を維持することの面倒さ
ラブアン法人を設立すれば、当期利益に対して3%、又は一律2万リンギットのいずれかを選択して納税する義務が発生しますし、前者を選べばラブアンオフショア金融センター公認の会計監査人による監査を受けなければならなくなります。
ラブアン法人の場合
税率 | 当期純利益の3%を選択 | 2万円リンギを選択 |
---|---|---|
会計監査 | 必要 | 不要 |
また、就労ビザを取得してマレーシアに居住する場合はそれほどの納税負担ではないものの、多少なりとも所得税が発生してしまいます。
MM2Hの就業規制はデメリットにあらず
少しMM2Hに詳しい方の場合、MM2Hの取得ではマレーシア内で就業できないのだから、ラブアン法人に優位性があるのではと考える方もいらっしゃるかもしれません。
MM2Hの場合、特別なスキルを持つ50歳以上の方でも週20時間以内の就労しか認められておらず、その点において自由に活動ができるラブアン法人はメリットがあると考えても無理もありません。
しかし、そもそもMM2Hビザのみを取得した場合で、海外FX業者を利用して取引することにマレーシア政府は何かしらの規制をかけるでしょうか。
MM2Hに限らず、自宅で取引をすることに関してはだれも何もとがめないのが実態ではないでしょうか。
ですから、何度かお伝えしているようにFX以外に何かビジネスをしたいという方でない限り筆者はMM2Hの取得で十分だと考えています。
結局、FXトレーダーの方でラブアン法人設立によりメリットが得られるのはどのようなケース?
FX取引を生業として節税するという前提に限ってお話すれば、マレーシアに住む予定の無い方で、シンガポールや香港などのタックスヘイブンに住みたいという方であれば、ラブアン法人設立によるメリットを受けられるかもしれません。
しかし、そのメリットは多少あるというレベルでFX取引以外にも何か他にビジネスがしたいという方でない限り、先ほどの所得税や法人維持のための面倒臭さなどもあり、それほどメリットは大きくないとも言えるかもしれません。
目的は利益に対して節税すること
そもそもラブアン法人はFX取引の利益に対して節税することが目的な訳です。
ですから、自分の居住国以外にある海外のFX業者を使い、その業者を使ってあげたFXからの利益に課税されない国に住んでいる限りはラブアン法人を設立するメリットは、他のビジネスもついでにやりたいということでなければあまり無いと言えます。
また、そのような利益に対して日本同様に課税される国や課税率があまり低くない国に住んでいる場合は、いずれも課税されてしまうためにそもそもこの比較は意味がないことになります。
まとめ
いかがでしたか?
日本やマレーシア以外からの、キャピタルゲインや利回りによる所得のみあれば、ラブアン法人を設立せずともMM2Hで十分事足りるのかもしれません。
詳しくは、自身の状況をマレーシア在住の日本人会計士などへ相談されるのが良いかと思われます。
本投稿は以上となりますが、これからMM2H取得・ラブアン法人設立を検討されている方の参考になれば幸いです。
また、マレーシアへの移住を検討されている方は、下記投稿も参考になるかと思われます。