今月15日夜(日本時間16日未明)に、英国メイ政権と欧州連合(EU)の間で合意されたEU離脱案の受け入れ是非を問う採決が英国下院で行われ、賛成202票、反対432票の大差で否決されました。
採決は、1924年のマクドナルド内閣の166票差を上回る230票差で否決され、同国メディアは「近代英国政治史に残る歴史的な敗北」と伝えています。
これにより、EUとの新たな通商条件などについて合意のないまま離脱に突入する可能性が一段と高まりました。
不信任案否決でも混迷は続く
これを受けて、最大野党の労働党が翌16日に内閣不信任決議案を提出しましたが、閣外協力する地域政党が反対にまわった結果、賛成が306票、反対が325票で不信任案は否決されました。
メイ首相は、ひとまず目先の危機を乗り切った形となりましたが、不信任を免れたメイ首相は今後、21日までに代替案を議会に提示しなければなりません。
マーケットでは、超党派協議によりEUとの貿易関係を維持する離脱案がまとまるとの期待が高まっていますが、その道のりは極めて厳しいと予想されます。
協議参加の条件として、各党の党首らが離脱時期の先延ばしなどに加え、離脱の是非を問う再国民投票の選択肢まで残すよう要求しているためです。
英国「合意なき離脱」で戦後最悪の不況も
残ったシナリオは「合意なき離脱」だけ?
今後のシナリオを整理すると、まずメイ首相は21日までに代替案を議会に提示しなければなりません。
提示までのごくわずかな時間で、EUと再び交渉が必要となるような修正案を盛り込むことは事実上不可能で、EUも「離脱案についての交渉を再開するつもりは全くない」という態度を崩していないことから、再びEUと交渉する可能性は極めて低いでしょう。
また、今から離脱の是非を問う再国民投票を行うということも考えにくいシナリオです。
もし総選挙が行われ、政権交代が実現して労働党が勝利すれば、再び国民投票を行うことはあるかもしれませんが、メイ首相は「2016年に実施した国民投票の結果が尊重されるべきだ」という姿勢を崩しておらず、現政権与党の保守党も解散を望んでいません。
そこで浮上するのが、3月29日の協議期限の延長を求める「ウルトラC」案ですが、協議期限の延長には英国を除くEU加盟国の総意が必要となります。
また、無条件で延期が認められるとは考えにくく、EU加盟期間延長に伴うEU予算の追加拠出(延長料金の支払い)をEU側に求められる可能性があり、英国内で激しい反発が起こることが予想されます。
となると、残ったシナリオは「合意なき離脱」だけということになります。
リーマンショックを上回る最悪の不況も
「合意なき離脱」は、EUと英国の双方にとって大打撃となります。
離脱によってEUの人口は約6624万人減り、GDPも約2兆3320億ユーロ(約290兆円)減少します。
英国のGDPは、28の加盟国の中でドイツに次いで2番目に大きく、EUのGDPは一挙に約18%、人口は約13%減ることになります。
ドイツの経済学者ハンス・ヴェルナー・ズィン教授は、「英国のGDPは、EUでGDPが最も小さい20カ国の合計に相当する。つまり、EUの小国20カ国が一度に離脱したのと同じインパクトを持つ」と述べています。
一方、英国に与える影響も甚大です。
英イングランド銀行(BOE)は、2018年11月に公表した報告書の中で、「合意なき離脱は英国のGDPを2019年第1四半期に比べて8%減らし、個人世帯向け不動産価格を30%、商業向け不動産価格を40%下落させる」と予測しています。
BOEが予想するGDPの減少率(8%)は、リーマンショックが引き金となって起きた世界同時不況の際の減少率(6.25%)をも上回ります。
つまり、合意なき離脱となった場合、第二次世界大戦以降で最悪の不況に陥る可能性があるのです。