英紙フィナンシャル・タイムズは今月11日、米国の著名ヘッジファンドであるタイガー・グローバル・マネジメントがソフトバンクグループの株式に10億ドル(約1100億円)超を投資したと報じました。
タイガー・グローバルがソフトバンクに1,100億円投資
報道によると、タイガー社は投資家に宛てた書簡で、ソフトバンク株を「かなり割安」と指摘し、ソフトバンクが保有する中国電子商取引最大手、アリババの株価が上昇していることに触れ、「ソフトバンク株は5年近く値上がりしておらず、今が買い時だ」と説明しています。
タイガー社は60億ドル(約6,760億円)相当の資産を運用し、ソフトバンクが出資するアリババや、米配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズなどにも投資しています。
「タイガー・カブス」の優等生
タイガー・グローバル・マネジメントは、2005年にチェース・コールマン氏によって設立されました。
タイガー・グローバルCEO兼会長 チェイス・コールマン氏
タイガー・マネジメントのアナリストとして入社
コールマン氏は、偶然にもあの伝説の投資家ジュリアン・ロバートソン氏の息子であるスペンサー氏とともに育ち、大学卒業後すぐにロバートソン氏率いるタイガー・マネジメントでアナリストとして働きました。
タイガー・カブスの中でも成績優秀
タイガー・マネジメントから独立してヘッジファンドを立ち上げたマネジャーは「タイガー・カブス(タイガーの子供たち)」と呼ばれますが、コールマン氏はタイガー・カブスの中でもピカイチの成績を誇ります。
30代で業界リターンランキング1位に
多くのファンドが苦戦した2011年、コールマン氏のタイガー・グローバル社は年率45%のリターンを叩き出し、30代にして業界のリターンランキングで1位に輝きました。
2011年「ブルームバーグ・ヘッジファンドリターンランキング」
順位 | ヘッジファンド名 | 運用金額 | 年率 |
---|---|---|---|
1 | タイガー・グローバル | 4,800億円 | 45% |
2 | ルネサス・I・エクイティ | 5,600億円 | 33.1% |
3 | ピュアー・アルファⅡ | 4兆2,400億円 | 23.5% |
4 | DMFP | 2,000億円 | 20.9% |
5 | プロバイドMBS | 1,000億円 | 20.5% |
(為替は1ドル=80円で計算)
IT株への投資を得意としてる
タイガー・グローバル社は、師匠のジュリアン・ロバートソン氏が絶対に手がけなかったIT株への投資を得意とし、これまでアップル株やフェイスブック株への投資で大きなリターンを上げています。
伝説のヘッジファンドマネジャー ジュリアン・ロバートソン氏
ソフトバンク株は割安か?
コールマン氏はソフトバンク株を割安と判断しているようですが、ソフトバンクのバリュエーションを見るとPERは15.39倍、PBRは2.24倍と、同セクターのNTTドコモ(PER15.69倍、PBR1.82倍)やKDDI(PER12.89倍、PBR2.01倍)と比べると、そこまで割安感はありません。
おそらくコールマン氏は、ソフトバンクの子会社上場をにらんで、ソフトバンク株に投資を決めたのではないかと推測されます。
孫正義氏がソフトバンクの株式上場の準備入り
孫正義氏は今年2月、携帯事業を手がける子会社「ソフトバンク」を上場させる準備を始めると発表しました。
ソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏
携帯子会社の上場により、事業が多角化・複雑化しているソフトバンクが、単体で電話通信事業を経営する同業他社に比べて相対的に低く評価される「コングロマリット・ディスカウント」という状況が改善される可能性があります。
※企業全体の価値が個別の事業部分の価値の総和に比して低価していると市場に評価されることで、経営資源が分散化されて、個々の事業では競争力・成長性が低下するなどのコングロマリットのデメリットが、企業規模拡大や資源を多くの事業に投下することによるリスク分散というメリットを上回っているために起きる。
世界最大のベンチャーキャピタルに
ソフトバンクグループは、980億ドル(約10兆9,000億円)をテクノロジー分野に投資する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立するなど、単なる電話通信事業会社ではなく、もはや世界最大のベンチャーキャピタルへとなっており、電話通信セクターの中で異色の存在となっています。
携帯子会社の上場が実現すれば、親会社は子会社株を市場で売却して資金を調達し、より一層テクノロジー投資を加速させることができます。
また、子会社にも単独でのバリュエーションが生まれ、事業評価が単純明快で大きいリターンが見込める携帯電話子会社に魅力を感じる投資家もいるでしょう。
子会社上場には否定的な意見も
一方、携帯子会社の上場はソフトバンクグループの企業価値を減少させるという意見も聞かれます。
ソフトバンクグループにとって、参入障壁が高く規制に守られた携帯事業はまさに「高収益を生み出す打ち出の小槌」で、携帯事業を凌ぐほどのリターンを生み出す投資先を見つけることは簡単ではないからです。
携帯子会社の上場が吉と出るか凶と出るか、凄腕ヘッジファンドのお手前拝見といきましょう。