アメリカの金融引き締めとそれによって発生した金利の上昇によりドル高円安が加速し、相場は109円台に突入しています。
経済的な流れとしてはシンプルに「金融引き締めによる金利の上昇が起こったためドルが買われ、結果としてドル高になっている」というだけの事象ですが、日米では現在様々な要因により「この動きが継続できるか否か」が争点となっています。
トランプによる貿易摩擦の懸念ふたたび
2018年4月現在、ドル高円安が発生したときに最も懸念される要素が「日米の貿易摩擦」です。
アメリカのトランプ大統領は就任当初はもとより、就任前に発行されていた自伝書籍でもたびたび「日本はアメリカから貿易で暴利を貪っている(意訳)」とのコメントを繰り返しており、その是正に向けた積極的な取り組みが日夜放送されており、予断を許さない状況です。
2017年度に米商務省より公表されたデータをもとに「前年度の貿易赤字」を算出すると、対日赤字は約689億ドルとなっております。
この貿易赤字は「日本が輸出する額」に対して「アメリカより輸出する額」が少ないことが原因で計上されており、為替が円安に振れると輸出に対して有利となるため、仮にアメリカ自国内での政策によりドル高円安が進んだとしても、何かしらのポジショントークにより円安をいさめる発言が出る、もしくは何らかの経済政策により円安を防止する動きに出るのでは、という懸念が出ております。
為替操作国で貿易黒字の日本には制裁が必要?
2016年4月29日に米財務省は「為替報告書」の内部に貿易相手の為替操作疑惑がある国をリスト化した「監視リスト」を設定しました。
そのリストの中には「日本」「中国」「韓国」「台湾」「ドイツ」が指定されており、日本もアメリカより「為替操作国認定」の一歩手前である「監視リスト入り」である、という判定を下されています。
正直な話、何をもって為替操作というかはリストを作った側の解釈次第ではあるのですが、現安倍政権下で行われている「物価(インフレ率)の上昇による景気改善」というのは言い方を変えれば「日本通貨の価値を安く(円安)して、企業収益の増加とそれに付随した賃金アップ・景気の好循環を図ろう!」ということですので、他国から見ればこれも立派な為替操作であるといえます。
もっとも、この「監視リスト」の要件ですが、これは
- 対米貿易黒字が200億ドル(約1兆円)以上
- 経常黒字が国内総生産(GDP)の3%以上
- 為替介入の3要件を満たした国に対して「為替操作国」と認定して制裁を発動できる
という法案に基づいたもので、極めてアメリカにとって恣意的なものです。
日本が監視リスト入りしたのも③の「為替介入3要件」のうち「2つ」を満たしたのが理由で、バッサリと言ってしまうなら「貿易赤字の相手が通貨安になればますます損するので、制裁しよう!」というだけの話です。
いらないアメリカ製品を買う余裕が日本にあるのか
現在の円安ドル高要因をファンダメンタル的にまとめると、
- アメリカ国内のバブル抑制(金融引き締め)によりドル高となっている
- 安倍政権の政策によりデフレ脱却を目指しているが、貿易上不利になるのでそれが気に入らない。
というだけの話になります。
前者に関してはアメリカ国内の要因によることが理由ですし、後者にしても輸出額が少ない(=日本がアメリカから購入する価値のある品が少ない)というだけの話ですので、日本向けの良い製品を作れないアメリカ国内の怠慢と捉えることもできますが、ことはそれほど単純ではありません。
実際「何が起こっても不思議ではない」というのが国家間通商の怖いところで、保護主義を前面に押し出すトランプ大統領は自国商品の改良という企業努力を行うことなく「日本はもっと車などを買うべきだ!」とねじこんできているのが現状です。
このどこまでも自己都合100%なセーリングを見る限り、たとえ傍目に見れば「貿易赤字は自業自得」であったとしても、それを少しでも自国にとって有利な形に是正するための「円安抑制発言」は今後も出てくるリスクが常に存在します。
結論としては「ファンダメンタル的には、中期的に円安ドル高。
だがトランプ大統領のポジショントークというリスクは常に存在する」と考え、運用の基本戦略を立てる必要があります。
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